芳賀宇都宮LRTのあれこれ(その1-3・本線設備-信号・通信-編)
はじめに
本記事は従来公開していた「芳賀宇都宮LRTのあれこれ(その1・本線設備編)」が長くなったため、信号設備に関係する部分のみを分離したものです。
なお本記事の内容については、あくまで個人(第3種第1級)が収集した内容であり、公式の内容ではありません。
この内容を基に各種関係機関へ問い合わせるなどの行為はお止めください。
また本内容を参考にする場合、出典を明記してください。
通信・信号設備
進路設定設備
芳賀宇都宮LRTでは電気転てつ機の操作を、従来の路面電車で一般的なトロリーコンタクターによる構成ではなく、車両上(運転台右下)の進路設定装置操作器であらかじめ設定した進路を、トランスポンダ方式で信号手前において地上子(ループコイル)経由で継電連動装置に送信することで進路を構成します。
またLRT専用の現示を出す必要のある特定の交差点においては、AF軌道回路の短絡による要求、もしくは軌道回路の短絡+ループコイル経由の要求により制御します(後述)。
↑進路設定器。行先と各使用線路に応じて割り当てられた番号を設定することで、各連動停留場進入時に自動的に進路要求がループコイルを通じて連動装置に送信されます
↑出発時は進路設定器一番右のRTSボタンを押下することで、進路が構成され進行現示がでます。そのため快速電車設定後も連動駅では通過運転は不可と想定されます。
車上進路設定器、ループコイル、無絶縁軌道回路(HFP軌道回路)はすべてドイツのHANNING & KAHL社のものが使用されています。
そして以下の写真が進路設定情報を受信するループコイル式の地上子です。ポイント制御の場合はおおよそ場内相当軌道信号機の1数十m手前と信号機直下の2カ所に設置されています。
↑バラスト軌道区間に設置されるむき出しのループコイル。写真右下の黒い箱はレールボックスと呼ばれ、ループコイル接続用の機器が内蔵されている。
なおこのループコイルは、連動駅での進路構成に使用されるほか、一部交差点での信号現示要求にも用いられます。
2対で設置されているレールボックスには無絶縁軌道回路の送受信機が格納されレールに接続されている。
↑宇都宮駅東口場内相当の進路構成用ループコイル。樹脂固定軌道区間ではループコイル上も樹脂固定され埋設されます。
手前が先行進路要求用、奥が信号機直下の進路要求用ループコイルです。
場内停止後要求する進路を変更する場合、CANボタン押下後進路設定番号を変更し、再度RTSボタンを押下することで進入番線を変更できる模様です。
また連動駅では無絶縁軌道回路(HFP軌道回路)があり、軌道回路の境界付近には電圧送受信用レールボックスも埋設されています。
以上の情報を基に構成した進路を示す信号機がこちらです。
↑2灯式軌道用信号機。上2灯が軌道用信号、下の1灯式がトランスポンダ反応灯になります。
↑3灯式軌道用信号機。上の3灯式のうち、上部2灯が進行方向、下1灯が停止現示となります。また下部の1灯式はトランスポンダ反応灯になります。
↑進路決定用ループコイル上を車両が通過し、トランスポンダ反応灯が点灯
↑車両側から要求した進路が開通すると、進路方向に軌道用信号が点灯する
場内相当の進路構成の例
なお一般的な鉄道における場内信号機に相当する軌道信号では、進路構成および到着番線が空いている場合(HFP軌道回路により在線を検知)に現示が出ます。出発信号機に相当する軌道信号では、進路構成のみによって現示が出るため、前方の在線は検知しません。出発時に車上の出発ボタン(RTS)を押すことで進路が構成されるようです。
万が一正常に動作しなかった場合に備え、軌道用信号機近くに現場操作箱が設置され、手動で切り替えることも可能です。
交通信号機の制御
芳賀宇都宮LRTは法律上は併用軌道、いわゆる路面電車ですので、信号交差点は全区間車両用信号灯器に従うことになります。
本事業においては事故防止の観点からセンターリザベーション方式で整備される区間では一般交通には基本的に右折車分離式の信号制御を採用するため、軌道に対する信号は青信号ではなく黄色矢印による現示となります。
青色矢印は自動車にのみ有効のため、全交差点に軌道用灯器(黄色矢印)が設置されます。自動車側からすると多少の混乱はあるかもしれませんが、基本的にLRT車両と自動車の交錯は起こりえない制御のため、かなり安全性の高いものとなります。
またこれらの信号は県警の管理となります。
↑車両用信号電材+電車用コイトの組み合わせ
↑車両用、電車用ともにコイトの組み合わせ
常に赤現示が点灯するため、電車用に対する停止現示(×)は不要です。
LRTにのみ現示を出す必要のある特殊な交差点における信号制御
サイドリザベーション方式となる区間や、平石小学校前・清原地区市民センター前、芳賀町管理センター前では、LRTと他の交通を分離する必要があり、LRTにのみ現示を出す必要があるため少々特殊な信号システムとなります。
上の例は清原地区市民センター前交差点の例です。このように軌道に対してのみ独立した現示を出す必要のある交差点では交差点の手前にAF軌道回路を設け、軌道回路の在線検知、または踏切制御子の在線検知をもってLRT用の現示を県警が管理する交通信号機の制御器に要求します(車両交通信号要求設備)。
↑電車専用現示を出す2灯式信号灯器。こちらは市管理となる。
↑2灯式軌道用信号はすべてコイト製が採用されている
・宇都宮駅東交差点
→県警との協議により、車両用信号に従うこととなり、現示要求設備は設置されませんでした。
・平石中央小学校前交差点
→下り(東行き)は各停・快速別要求。快速用ループコイルは交差点停止線約275m手前
→上り(西行き)は交差点停止線約280m手前の軌道回路で在線検知し要求
・清陵高校前交差点
→下り(東行き)は交差点停止線約300m手前の踏切制御子による検知で要求
→上り(西行き)は各停・快速別要求。快速用ループコイルは交差点停止線約305m手前
・清原管理センター前交差点
→下り(東行き)は交差点停止線約280m手前の踏切制御子による検知で要求
→上り(西行き)は種別にかかわらず清原地区市民センター停留場出発直後のループコイルで現示を要求
・デュポン東交差点(清原地区市民センター前交差点)
→下り(東行き)は種別にかかわらず清原地区市民センター停留場出発直後のループコイルで現示を要求
→上り(西行き)は交差点停止線約300m手前の踏切制御子による検知で要求
・キャノン西交差点
→種別にかかわらずグリーンスタジアム前の出発用ループコイルで現示を要求
・芳賀工業団地管理センター前交差点
→現示要求設備は一式整備されましたが、県警との協議により南北側に転回禁止規制を入れたうえで、南北方向の右折専用現示と軌道用現示を同時に出すことが可能となり、軌道用現示単独で出すことがなくなったため、現示要求設備は使用されていません。
ただし交差点内に相当する軌道回路上に在線がある間は、軌道用現示を現示し続ける機能は使用されている可能性があります
以上5交差点ではAF軌道回路の在線検知による要求に応じて、軌道用現示を出します。なお平石中央小学校前交差点(下り)、清陵高校前交差点(上り)、芳賀工業団地管理センター前交差点(下り)では要求ポイントと停留場が重なるため、軌道回路の短絡による要求に加え、快速用のループコイルと各駅停車用のループコイルを設置し、2つの要求をもって信号現示を制御器に要求します。概念図は以下の通りです。
交差点の270~300m手前に設置された在線検知(軌道回路または踏切制御子)により現示要求が送られ...↓
直近の現示の切り替わりに軌道用現示を割り込ませ、電車進入前に軌道用現示を出すことが可能です。なお場合により直前現示の短縮も行われます。
また一度現示を要求すると、現場操作をしない限り電車が通過するまで軌道用現示が出続けます。
無信号横断箇所の安全対策
芳賀宇都宮LRTでは車道との交差点のうち、信号が設置されない横断箇所がいくつか存在します。
以下は車道もしくは歩行者用通路での無信号横断箇所の設置数です。
区間 | 無信号横断箇所 |
宇都宮駅東口 | 1 |
平石~平石小学校前 | 2 |
平石~車両基地入出庫線 | 1 |
平石小学校前~(鬼怒川橋梁) | 1 |
飛山城跡 | 1 |
清陵高校前~清原地区市民センター前 | 3 |
清原地区市民センター前~グリーンスタジアム前 | 1 |
グリーンスタジアム前~(野高谷) | 6 |
以上の無信号横断箇所では、LRT車両の接近を示す電車接近表示装置が設置されます。また歩道が直接軌道と交差するような箇所にも同様の電車接近表示装置が設置されます。合計すると16ヵ所に設置されるようです。
電光表示のほか、パトライトの発光、音声による警告が行われます。
なおこれらの動作には踏切制御子が使用されますが、連動駅では軌道回路による検知やRTS押下による軌道信号開通によって動作する箇所が存在します。
グリーンスタジアム前~(野高谷)の設置例。
旅客案内向け在線検知
芳賀宇都宮LRT(宇都宮芳賀ライトレール線)においては、各停留場に旅客案内用装置(LCD式発車標)が設置され、電車の接近状況をLCD上と音声によって案内するシステムを構築しています。
通常一般的な鉄道では軌道回路を用いた在線検知や、最近ではGPSを用いた在線検知などでこれらのシステムを構築するのが一般的ですが、芳賀宇都宮LRTでは少し変わったシステムを採用しています。
まず各車両の運行系統情報は車載装置と管理棟(車両基地内)に設置された運行管理システム間を公衆電話回線にて通信を行います。
一方で各車両の位置情報については、通過する車両運転台付近に設置されたタグから発信される電波を、各停留場に設置されたRFIDタグ受信機が受信することによって検知します。正確な確認は出来ていませんが、先頭運転台のタグを受信し駅進入と判断、後方運転台のタグを受信し駅を発車(通過)と判断している可能性が高いです。
路線上、信号関連の制御のために何か所か無絶縁軌道回路が設置されていますが、これらは案内上の在線検知には用いられません。
↑停留場内に設置されているRFID受信機(ホーム先端にあることが多いです)
各駅には旅客案内用表示板が設置されています。
RFIDの検知状況に応じて、2停前から電車の接近状況を知らせます。
おわりに
以上が芳賀宇都宮LRTのあれこれのうち、主に信号・通信設備に関するものです。
※2023年9月20日全体的に加筆・修正のうえ記事分離