芳賀宇都宮LRTのあれこれ(その1・本線設備編)
はじめに
ここで一度芳賀宇都宮LRTのあれこれを整理したいと思います。
まずは法律上の位置づけや、軌道構造などの各種設備についてまとめていきたいと思います。
芳賀宇都宮LRTの基本情報
以下はWikipediaでも確認できることですので今更間がありますが一応まとめておきます。
データ | 備考 | |
線路距離 | 14.6km | |
内宇都宮市区間 | 12.0km | |
内芳賀町区間 | 2.6km | |
適用法規 | 軌道法 | 全区間軌道運転規則適用 |
内併用軌道区間 | 14.6km | 全区間市道又は町道認定による併用軌道 (専用軌道区間はなし) |
最高速度 | 40km/h | |
保安装置 | なし | |
軌間 | 1,067mm | 軌道構造は別途記述 |
電圧 | 直流750V | |
変電所 | 4か所 | 今泉・平出・清原・芳賀 |
架線構造 |
直吊架線方式 シンプルカテナリー式(鬼怒川橋梁前後のみ) |
|
最急勾配 | 60.0‰ | 清陵高校前電停西側(約207.0m) かしの森公園南側谷部(約507.5m) |
停留場 | 19か所 | |
事業方式 | 公設型上下分離方式 | |
軌道運送事業者 | 宇都宮ライトレール株式会社 | |
軌道整備事業者 | 宇都宮市、芳賀町 | ただし芳賀町区間は一部整備を県に委託 |
芳賀宇都宮LRTは全区間市道又は町道に指定された併用軌道となります。公式資料では専用軌道区間と公称している区間も法律上は併用軌道区間になります。詳細は後述します。
配線図
芳賀宇都宮LRT全区間の配線図です。分岐器が設置される停留場は計4か所(宇都宮駅東口、平石、グリーンスタジアム前、芳賀・高根沢工業団地前)で、途中の平石・グリーンスタジアム前では宇都宮駅東口方面への折り返し運転が可能な配線となっています。途中停留場で芳賀・高根沢工業団地前方面への折り返しが可能な箇所はありません。
平石停留場で終点方に折り返すためには、一度車両基地に入庫した上で再度出庫するか、ポイント転換を手動にする必要があり通常は行いません。
(2023年8月22日一部修正しました)
軌道構造
芳賀宇都宮LRTではレールが4種類、道床が2種類あり、組み合わせた軌道構造としては計6種類存在します。
レール
レールでは、「T型レール(50kgN)」「T型レール(50kgN)+護輪軌条(ガードレール)」「溝付レール」「薄型レール」の4種が存在します。
薄型レールは一部交差点や峰町立体区間など、地中の制約条件で深く掘ることのできない一部区間にのみ採用されています。
また鬼怒川橋梁上はロングレールとなっており、橋梁両端に伸縮継目が設置されています。
各レール断面図(寸法は省略)
道床
道床は「バラスト軌道」「樹脂固定軌道」の2種のみです。
バラスト軌道ではレールの固定にPC枕木を使用します。また高架区間(擁壁部・橋梁部)のバラスト軌道ではバラストマットの上に道床を施工します。
樹脂固定軌道では地盤改良した上にコンクリートスラブを設置し、スラブ上の溝にレールをはめ、特殊な樹脂で固定するものです。
このコンクリートスラブには、工場で製作したものを設置したフルプレキャストスラブ、左右のレール部分の溝のみ工場で製作し、現場で連結したハーフプレキャストスラブのほか、レールの変換部やカーブ部分など完全に現場打で製作したスラブがあります。
また峰町立体上はコンクリートスラブを設置できないため、スチールトラフ内にレールの敷設し樹脂固定したのち、それ以外の部分を現場打コンクリートで固めています。
樹脂固定軌道の例(溝付レールの場合)
軌道構造まとめ
全区間の軌道構造は次の通りです。
※芳賀町区間のレール構造に一部誤りがあったため2023年8月18日に一部修正しました。
分岐器
分岐器は進路構成が可能な電気転てつ機が計8か所(内宇都宮駅東口1カ所、平石3箇所、グリーンスタジアム前3箇所、芳賀・高根沢工業団地前1カ所)、発条転てつ機が計13か所(内宇都宮駅東口3箇所、平石4か所、グリーンスタジアム前3箇所、芳賀・高根沢工業団地前3箇所)設置されます(※車両基地内の分岐器を除く)。
本線上の電気転てつ機は電磁式電気転てつ機が設置されます。また本線上の進路構成は後に詳しく記述しますが、継電連動装置により制御されます。
電磁式電気転てつ機の設置例(グリーンスタジアム前)。軌間の黒い箱の中が電磁式電気転てつ機。
平石停留場では前述の通り宇都宮駅東口方面への折り返し運転が可能のほか、車両基地を併設しているため、入出庫に対応した分岐器も多数設置されています。
電車線路設備構造、通信・信号設備
架線柱装柱
芳賀宇都宮LRTの電車線路設備について、通常の鉄道の電車線路設備と同様に、き電線・帰線・電車線(トロリ線)から構成されます。
電車線は基本的に直吊架線方式で、ほとんどの区間はセンターポール式の架線柱によって架設されます。
き電線・帰線は軌道直下の埋設管路に敷設される形式です。一般的なセンターリザベーション方式の軌道区間における電車線路設備構造を以下に示します。
※帰線は設計変更によりレール兼用になり、敷設されなくなりました
グリーンスタジアム前など軌道敷が広くなる区間や、片持ち式の架線柱を採用する場所では、鋼管ビームに下束が設置され、そこに架線支持物が設置されます。
架空電車線方式
架空電車線は基本的に直接吊架式が採用されていますが、鬼怒川橋梁とその前後のみ、将来の高速運転に備えシンプルカテナリー式が採用されています。
↑基本的な直接吊架式区間の様子。センターポール区間では軌道建設規定の定めにより、架線柱上に照明が設置されています。
↑架線柱照明点灯の様子。間接照明のようなもので、はっきり言って道路照明の役割は果たしていない。
また架線柱番号は基本的に起点側の停留場略名+停留場からの通し番号が採用されていますが、ここでの停留場名には仮の停留場名がそのまま採用されています。
↑清陵高校前~清原地区市民センター前の架線柱番号。仮名称の作新学院北の略称がそのまま使われている
き電区間と架線柱番号一覧
↑軌道用信号の見通し確保のため一部例外的に採用されている片持ち式の例
↑鋼管ビームの例。ビームに下束が設置され、その後電車線(トロリ線)の施工となる。
また終点の芳賀・高根沢工業団地付近には道路を跨ぐ鋼管トラスが設置される予定です。
交差点では太めの架線柱から吊架線を渡しトロリ線を支持します。場所によっては架線柱が信号柱を兼ねます。なお吊架線にはベクトランコンポジットロープと呼ばれる、絶縁性の高いロープが採用されており、碍子を必要としません。
セクション
変電所間のセクションは、当初エアセクション式を採用する予定でしたが、すべてセクションインシュレータに変更になっています。
これにより電車がセクション間に停車することは限りなく少なくなっています。
↑電車線区分標とセクションインシュレータ(~今泉変電所と今泉変電所-平出変電所間のセクション)
↑セクション部分の拡大図
通信・信号設備
進路設定設備
芳賀宇都宮LRTでは電気転てつ機の操作を、従来の路面電車で一般的なトロリーコンタクターによる構成ではなく、車両上(運転台右下)の進路設定装置操作器であらかじめ設定した進路を、トランスポンダ方式で信号手前において地上子(ループコイル)経由で継電連動装置に送信することで進路を構成します。
またLRT専用の現示を出す必要のある特定の交差点においては、AF軌道回路の短絡による要求、もしくは軌道回路の短絡+ループコイル経由の要求により制御します(後述)。
↑進路設定器。行先と各使用線路に応じて割り当てられた番号を設定することで、各連動停留場場内、出発で自動的に進路要求がループコイルを通じて連動装置に送信されます
車上進路設定器、ループコイル、無絶縁軌道回路(HFP軌道回路)はすべてドイツのHANNING & KAHL社のものが使用されています。
そして以下の写真が進路設定情報を受信するループコイル式の地上子です。ポイント制御の場合は軌道信号機の120m手前と直前の2カ所に設置するようです。
↑バラスト軌道区間に設置されるむき出しのループコイル。写真左下の黒い箱が無絶縁軌道回路(HFP軌道回路)の送受信装置
↑宇都宮駅東口場内相当の進路構成用ループコイル。樹脂固定軌道区間ではループコイル上も樹脂固定され埋設されます。
手前が先行進路要求用、奥が信号機直下の進路要求用ループコイルです。
またループコイル前後には無絶縁軌道回路用(HFP軌道回路)の送受信用レールボックスも埋設されています。
以上の情報を基に構成した進路を示す信号機がこちらです。
↑2灯式軌道用信号機。上2灯が軌道用信号、下の1灯式がトランスポンダ反応灯になります。
↑3灯式軌道用信号機。上の3灯式のうち、上部2灯が進行方向、下1灯が停止現示となります。また下部の1灯式はトランスポンダ反応灯になります。
↑進路決定用ループコイル上を車両が通過し、トランスポンダ反応灯が点灯
↑車両側から要求した進路が開通すると、進路方向に軌道用信号が点灯する
場内相当の進路構成の例
なお一般的な鉄道における場内信号機に相当する軌道信号では、進路構成および到着番線が空いている場合(HFP軌道回路により在線を検知)に現示が出ます。出発信号機に相当する軌道信号では、進路構成のみによって現示が出るため、前方の在線は検知しません。出発時に車上の出発ボタンを押すことで進路が構成されるようです。
交通信号機の制御
芳賀宇都宮LRTは法律上は併用軌道、いわゆる路面電車ですので、信号交差点は全区間車両用信号灯器に従うことになります。
本事業においては事故防止の観点からセンターリザベーション方式で整備される区間では一般交通には基本的に右折車分離式の信号制御を採用するため、軌道に対する信号は青信号ではなく黄色矢印による現示となります。
青色矢印は自動車にのみ有効のため、全交差点に軌道用灯器(黄色矢印)が設置されます。自動車側からすると多少の混乱はあるかもしれませんが、基本的にLRT車両と自動車の交錯は起こりえない制御のため、かなり安全性の高いものとなります。
またこれらの信号は県警の管理となります。
↑車両用信号電材+電車用コイトの組み合わせ
↑車両用、電車用ともにコイトの組み合わせ
常に赤現示が点灯するため、電車用に対する停止現示(×)は不要です。
LRTにのみ現示を出す必要のある特殊な交差点における信号制御
サイドリザベーション方式となる区間や、平石小学校前・清原地区市民センター前、芳賀町管理センター前では、LRTと他の交通を分離する必要があり、LRTにのみ現示を出す必要があるため少々特殊な信号システムとなります。
上の例は清原地区市民センター前交差点の例です。このように軌道に対してのみ独立した現示を出す必要のある交差点では交差点の手前にAF軌道回路を設け、軌道回路の在線検知をもってLRT用の現示を県警が管理する交通信号機の制御器に要求します(車両交通信号要求設備)。AF軌道回路から信号制御器に現示要求をする交差点は次の通りです。
↑電車専用現示を出す2灯式信号灯器。こちらは市管理となる。
↑2灯式軌道用信号はすべてコイト製が採用されている
・宇都宮駅東交差点
→県警との協議により、車両用信号に従うこととなり、現示要求設備は設置されませんでした。
・平石中央小学校前交差点
→下り(東行き)は各停・快速別要求
・清陵高校前交差点
→上り(西行き)は各停・快速別要求
・清原管理センター前交差点
→上り(西行き)は種別にかかわらず清原地区市民センター停留場直下のループコイルで現示を要求
・デュポン東交差点(清原地区市民センター前交差点)
→下り(東行き)は種別にかかわらず清原地区市民センター停留場直下のループコイルで現示を要求
・キャノン西交差点
→種別にかかわらずグリーンスタジアム前の出発用ループコイルで現示を要求
・芳賀工業団地管理センター前交差点
→現示要求設備は一式整備されましたが、県警との協議により南北側に転回禁止規制を入れたうえで、南北方向の右折専用現示と軌道用現示を同時に出すことが可能となり、軌道用現示単独で出すことがなくなったため、現示要求設備は使用されていません。
(もったいない...)
以上5交差点ではAF軌道回路の在線検知による要求に応じて、軌道用現示を出します。なお平石中央小学校前交差点(下り)、清陵高校前交差点(上り)、芳賀工業団地管理センター前交差点(下り)では要求ポイントと停留場が重なるため、軌道回路の短絡による要求に加え、快速用のループコイルと各駅停車用のループコイルを設置し、2つの要求をもって信号現示を制御器に要求します。概念図は以下の通りです。
無信号横断箇所の安全対策
芳賀宇都宮LRTでは車道との交差点のうち、信号が設置されない横断箇所がいくつか存在します。
以下は車道との無信号横断箇所の設置数です。
区間 | 無信号横断箇所 |
宇都宮駅東口 | 1 |
平石~平石小学校前 | 2 |
平石~車両基地入出庫線 | 1 |
平石小学校前~(鬼怒川橋梁) | 1 |
飛山城跡 | 1 |
清陵高校前~清原地区市民センター前 | 3 |
清原地区市民センター前~グリーンスタジアム前 | 1 |
グリーンスタジアム前~(野高谷) | 6 |
以上の無信号横断箇所では、LRT車両の接近を示す電車接近表示装置が設置されます。また歩道が直接軌道と交差するような箇所にも同様の電車接近表示装置が設置されます。合計すると16ヵ所に設置されるようです。
電光表示のほか、パトライトの発光、音声による警告が行われます。
なおこれらの動作には踏切制御子が使用されます。
グリーンスタジアム前~(野高谷)の設置例。
在線検知
芳賀宇都宮LRT(宇都宮芳賀ライトレール線)においては、各停留場に旅客案内用装置(LCD式発車標)が設置され、電車の接近状況をLCD上と音声によって案内するシステムを構築しています。
通常一般的な鉄道では軌道回路を用いた在線検知や、最近ではGPSを用いた在線検知などでこれらのシステムを構築するのが一般的ですが、芳賀宇都宮LRTでは少し変わったシステムを採用しています。
まず各車両の運行系統情報は車載装置と管理棟(車両基地内)に設置された運行管理システム間を公衆電話回線にて通信を行います。
一方で各車両の位置情報については、通過する車両運転台付近に設置されたタグから発信される電波を、各停留場に設置されたRFIDタグ受信機が受信することによって検知します。つまりある停留場を通過したかどうかしか運行管理システム上では把握できません。
路線上、信号関連の制御のために何か所か無絶縁軌道回路が設置されていますが、これらは案内上の在線検知には用いられません。
おわりに
以上が芳賀宇都宮LRTのあれこれのうち、主に本線の設備に関するものでした。
次回は車両基地に関するあれこれを整理したいと思います。
※2023年8月22日全体的に加筆・修正