第3種第1級

芳賀・宇都宮LRTの工事状況や各種設備などを解説しています。

芳賀宇都宮LRTの工事遅れの原因を解く(その2・芳賀町内)

はじめに

今日の今日まで芳賀町の公式HPでは一切言及されておりませんが、宇都宮市が令和4年6月3日に工事の遅れによる開業の延期を公表した際、芳賀町「ウチは遅れていない、工事は順調に進んでいる」というような趣旨の内容を町長自ら報道機関に発言*1しておりました。

ところがそれからたった2ヶ月後の令和4年8月17日に宇都宮市が公表した開業時期と各区間の工事の完了見通し時期を見ると、しれっと芳賀町内の工事完了時期がしれっと当初の予定より大幅に遅れている(野高谷町周辺と同等かそれ以上)ことが書かれていたのです。

いやいや、そんな2ヶ月で事態が急変したわけがなく、もっと前からわかっていたことですよね、と突っ込みたくなるわけですが...

前記事で言及した芳賀町区間の闇とはこれです。

一体芳賀町内で何が起こっていたのか、何が原因でここまで遅れているのか、現場の状況から推察していきます。

 

全体的に遅れている工事

宇都宮市とは違う施工体系

芳賀町内の工事の遅れについて推察していく上で外せない条件があります。

芳賀町は人口1.4万人程度の小さな町で、町主体の大規模な公共事業はこれまでおそらくほとんどなく、規模の大きい工事の発注・管理経験もたぶんありません。土木の技術職員数もそんなに多くないでしょう。到底芳賀町だけでは道路改良工事から軌道工事等、すべてを発注・管理することは不可能だと思います。

それは最初から芳賀町もわかっていたのか、芳賀町区間は用地取得業務と道路改良工事などの工事を、すべて栃木県(用地は県土地開発公社、工事は県土整備部真岡土木事務所)に委託することにしたのです*2

芳賀町の役割分担としては、拡幅などの道路完了工事が完了したあと、軌道関係(管路、電車線路設備、通信設備、各停留場など)の発注・監督が中心となりました。

 

...なのですが、おそらくこのやり方が遅れの原因の一つとなっていたはずです。

というのも、通常公共工事は定期的に発注者が完成図面を基に、しっかりと施工されているか立会をしたり検査をしなければなりません(つまり職員が現地に赴く必要がある)。

これが宇都宮市であれば、建設部にLRT整備のための専門の部署があり、おそらく相当数の職員が配置されているので、比較的スムーズに立会ができるはずです。担当職員がいる市役所からの距離もそこまで遠くないのできっとすぐ来るのでしょう。

ところが芳賀町では、真岡土木事務所が受託して工事の発注・管理を行っています。当然県職員が立会、検査をする必要があります。しかしながら真岡土木事務所からすれば、LRT工事は事務所が数多く抱える事業の一つに過ぎません。LRT工事だけを優先することはできないのです。しかも担当職員のいる真岡土木事務所は遠く離れた真岡市内です。移動だけで相当時間がかかります。

スムーズに立会ができなければ施工業者は終わるまで工事を進めることができませんから、当然その分だけ工事が遅れます。

芳賀町内の工事を見てきた方ならわかるかと思いますが、芳賀町内の工事は県発注工事のほとんどが工期が延長されています。あくまで推測に過ぎませんが、全体的な工事の遅れとしてはこの辺が大きく効いていると思っています。

(ちなみにこの現場立ち合いは昔から工事が止まる原因となっていて、最近ではオンライン立ち合いが導入されたりしています)

工業団地ならではの設備の移設

芳賀町内はルート上のそのほとんどが工業団地(芳賀工業団地と芳賀・高根沢工業団地)であり、道路上を占有しているものにも工業団地特有のものが多くあります。芳賀工業団地では県営の工業用水のほか、排水も工業団地専用の排水管を道路下に埋設しています。

これらの埋設管が一部移設が必要となったうえ、特に県道宇都宮茂木線ではもともと中央分離帯直下にあった雨水管も、軌道に支障のない歩道下へ移設しています。

これらの管の所管が異なっていることで施工管理が複雑になり、移設完了にかなりの時間を要しました。

上水:芳賀中部上水企業団

工業用水:栃木県(企業局)

(工業用)排水管:芳賀町

雨水管:栃木県(県土整備部)

移設が遅れたことで、一部道路改良工事に着手できない期間が生じ、県発注工事が全体的に遅れてしまったと考えられます。

終点付近の歩道橋架け替え工事の影響

前章では「全体的に工事が遅れている」としたものの、ほとんどの区間は2022年中には完成予定となっています。ほとんどが宇都宮市内で最も遅れている野高谷第2架道橋部分よりは早く完成します(といっても特に大規模な構造物工事もないし、用地買収上もほとんど支障物件がないのに、宇都宮市内の併用軌道区間より遅れているのがそもそもおかしいのですが...)。

芳賀町区間で最も問題なのが、そう、あの終点付近です。

用地買収の遅れによる歩道橋架け替え工事の着手遅れ

終点付近では道路の西側の用地を買収して拡幅、歩道橋架け替え等を行うことになっていますが、終点付近は島式ホームの設置や新歩道橋の架設用地が必要なことから、用地の買収幅も最も広くなっています。

ちょうどこの場所には運送業者の倉庫があり、倉庫1棟が丸々支障するため解体が必要となったわけです。

この倉庫部分について、(なぜか)宇都宮市議会の答弁で権利者が3名いることと、交渉がまとまらず用地買収が遅れていることが分かってます。

芳賀町にとってもっとも不運だったのが、歩道橋架け替えという大規模な工程がありながら、架け替えに必要な用地取得が遅れに遅れ、結局芳賀町内では最後まで残ってしまったことでしょう。

結局用地が町に引き渡されたのが2022年の6月と、その後の工程を考えると2022年度中にも間に合わないような時期となってしまったわけです。

当初工程案と既設歩道橋を先に解体できない事情

この歩道橋部分については、本田技研の社員用駐車場と事業所を結ぶ経路となっており、多くのホンダ社員がこの歩道橋で行き来しています。その特殊な事情からか新設歩道橋を供用するまで既設歩道橋は残して、自動車と平面錯綜しないよう配慮することとしていました。

そのため通常の歩道橋架け替え工事と比較し、長い工期が必要となっています。

上図は既設歩道橋と完成時の車道、軌道位置を示しています。

上図からわかるとおり既設歩道橋と拡幅後の北進車道位置が干渉しています。しかも車道上を歩道橋の施工ヤードとして使用する計画だったため、干渉しない部分からの着手も難しい状況でした。

つまり

新設歩道橋架設工事(約10か月)

既設歩道橋撤去(約1か月)

新設歩道橋停留場アクセス部仮設工事(約1か月)

道路改良、北進車道を西側へシフト(約4か月)

軌道工事・停留場工事(約6か月)

という順番で工事を行うほかありません(同時並行不可)。

概算の工期でみても、新設歩道橋の架け替え工事着手から工事完了まで1年以上かかってしまいます。用地が引き渡された2022年の6月直後にスムーズに着手したとして完成は2023年かひょっとしたら2024年に突っ込むかもしれません。これではあまりにも遅れすぎます。

第1回施工計画の変更

用地買収が遅れた以上、当初の施工計画では宇都宮市内に比べあまりにも完成が遅れてしまうため、一度遅れていないと言ってしまった以上、このままでは将来批判を集めてしまうことは必須です。

なんとか横断方法を確保しつつ工程の短縮を図るため、真岡土木事務所と芳賀町はまず下図のように施工計画を変更します。

この計画変更により、とりあえず歩道橋架け替え工事を進めつつ、軌道工事には先に着手できるようになります。全体では半年ほどの工期短縮が望めると考えられます。

ただこのままでは結局拡幅部分の道路改良工事は既設歩道橋を撤去するまで着手できません。

また、車道を東側へ集約している以上どこかで北進の車道を暫定的に軌道を横断させてシフトしなければならず、軌道が先に完成してもその段階では電車を走らせることができません。ですので、個人的にはこの計画変更でも2022年度中の完成は難しいのではないかと考えていました。

第2回施工計画の変更

予想通り第1回の変更計画では2022年度中の完成が難しかったのか、2022年8月になって再度施工計画が変更されます。「ホンダ社員の横断は横断歩道橋」というところはこれまで頑なに変更しなかったわけですが、ついに歩道橋部分に仮設の横断歩道と押しボタン式信号を設置することで、ホンダ社員の横断方法を平面で確保しつつ、先に既設歩道橋を撤去することとしたのです*3

既設歩道橋を先に撤去することで、道路改良工事にも支障するものがなくなりますから、すべての工事を並行して進められるようになりました。

これによりなんとか2022年度中には間に合うかなぁというところでしょうか。

というかこの横断方法でもいいのなら最悪LRTの試運転開始時には別に歩道橋が完成していなくてもいいわけですよね。

おわりに

本記事に書いたように、おそらく公式の発表や報道等にある以上に芳賀町区間の工事遅れは深刻です。

工事の遅れは権利者や利害関係者との交渉もありますから仕方のないものです。工事を始めてみないとわからこともたくさんあります。

問題なのはその情報の公開過程にほかなりません。なぜ宇都宮市が完成が遅れそうだと公表した時点で、芳賀町は遅れていないと言い切ってしまったのか...

さらにこの点について、今日まで芳賀町議会や報道ではほとんど指摘されていないのも大きな問題でしょう。宇都宮市議会では、議会与党からも工事の遅れや情報の公開過程について厳しく指摘されています。

地元だけでなく世間から大きく注目されている事業だけに、宇都宮市芳賀町、栃木県は相互にしっかりと情報共有しながら、最後まで無事故で工事を進めてほしいものです。