第3種第1級

芳賀・宇都宮LRTの工事状況や各種設備などを解説しています。

芳賀宇都宮LRTの工事遅れの原因を解く(その1・宇都宮市内)

はじめに

宇都宮市は、令和4年6月3日*1に、野高谷町交差点付近の工事の遅れにより開業を令和5年3月から数カ月程度延期すると発表しました。その後、令和4年8月17日には再度宇都宮市*2から、開業を令和5年8月とすることが発表されています。

6月の発表時点では野高谷町交差点付近以外では目立った遅れはないとしていましたが、8月の発表では、野高谷町交差点付近が約5ヶ月*3、その他に芳賀町内が4ヶ月程度遅れている他、平石~グリーンスタジアム前とゆいの杜内についても当初目標の令和4年10月工事完了から2ヶ月程度遅れることが公表されています。

なぜこのような事態になったのか、それぞれの場所で何が起きていたのか、解いていきます。

 

区間の工事遅延の状況について

平石停留場~グリーンスタジアム

新4号横断部

新4号国道を横断するトンネル躯体の建設工事については、新4号国道の管理者である国土交通省関東地方整備局宇都宮国道事務所に委託して進めてきました。

この工事については平成30年度に発注され、令和元年5月に工事着手、当初の工期は令和3年3月25日で設定されていました。

※本工事はLRTのボックス構築のほか、下りオフランプ側の交差点改良も含まれています。すべての工事が完了するのが令和3年3月25日であって、トンネル躯体はそれより前には完成し宇都宮市に引き渡されるようになっていたものと思われます

実はこの工事、そもそも工事着手が数ヶ月遅れています。事業用地が円滑に取得できなかったためです。当初工事着手は平成30年度中の予定でした。

令和元年5月に用地上の問題がない国道西側で準備工事に着手したものの、国道東側では支障物件がありなかなか本工事に着手できない状況が続きました。結局国道東側の用地が(一応)解決したのが同年11月頭です。この時点で1年近く遅れています。

※一応というのは、当初の計画通りに用地が取得できず(工事用道路に支障する民家の除去が仮設ランプ橋構築までに間に合わなかった)、設計変更があったためです。なお現在は用地買収を完了してます

結局工期は1年延期され令和4年3月31日に設定されました。

ところがこの工事、新4号のランプ部は仮橋による迂回、本線は覆工板の敷設による直下の開削工事という難工事であるからか、工事そのものが計画通りに進みませんでした。

既存の道路や鉄道の下にボックスを構築する際は、今回用いられた開削工法の他、推進工法もよく用いられます。開削工法は工期は長くなりますが費用は抑えられます。一方で推進工法は一般的には仮設工が少なくて済み、工期が短くなります。ただし費用が開削工法と比較し高くなることが挙げられます。

LRT事業では事業費の問題が大きくあり、できる限り工費を圧縮するために開削工法が用いられたものと思われます。

結局令和4年度末には工事が完了せず、今度は令和4年9月30日までに工期が延長されました。

そして令和4年8月18日時点では、トンネル躯体が完成しランプ部が元の位置に戻され仮設橋が撤去され始めているものの、工期が令和5年1月へと更に延期されています。

軌道工事には9月中には引き渡しとなりそうですが、当初の工期から考えると約2年と大きな遅れになっています。

平石~グリーンスタジアム前の工事完了時期は公式で令和4年12月と公表されていますが、おそらく最後まで残るのはここだと思います。

平石中央小周辺

平石中央小周辺は、皆様御存知の通りLRT建設に対する反対運動が大きく行われた地区であり、用地取得完了までかなりの期間を要しました。

結局この区間の用地引き渡しが完了したのは令和4年6月頃です。この区間は樹脂固定軌道のため難工事はありませんが、軌道横断部などで信号設備工事が多く存在するため、単純なセンターリザベーション区間と比較すると、完成までの工程が多少多くなります。さらに分断される地域のための側道整備も合わせて行わなければなりません。令和4年8月18日時点の工事状況を見る限りでは、完成は10月から1ヶ月程度遅れると見ています。

清陵高校西側擁壁区間(清原第1工区)

この区間では市道379号線をトンネルで潜る関係で、U型擁壁による掘割構造となっています。しかしながら用地買収の遅れにより擁壁工時の着手が令和3年12月まで遅れました。令和4年8月18日時点ではU型擁壁の大部分を完成し、工事完了を待たずに軌道工事に引き渡されています。

現地の状況からして最大で1ヶ月程度遅れるものと見ています。

(令和4年8月18日撮影)

野高谷町交差点付近

今回の開業延期の最も大きな原因として野高谷町交差点付近が挙げられています。

公式発表では「交通影響に対応し、交通規制範囲を当初計画より縮小したことにより作業日数を要しその後の工事への引き渡しが遅れたため」*4としています。本当にそれだけでしょうか。

度重なる工事の入札不調

この区間の拡幅工事は大きく2つの工事に分けられます。

現道北側の道路改良工事(分割2号)と南側の道路改良工事(分割1号)です。この2つの工事は何度も公告されては不調となり、なかなか業者が決まらない事態となります。

どちらも実に3連続の不調となっており、業者が決まったのは4度目です。しかも4度目でも応札者は1者しかいませんでした。

後述しますが、この区間の北側には県が電線共同溝(CC-BOX)を整備しており、拡幅に当たり電線共同溝も移設が必要となり、当初は道路改良工事と電線共同溝を分け、別工事で公告していました。2回連続で不調となった後、道路改良工事(分割2号)に共同溝移設工事を含める形で再度公告されています。

業者決定の過程で4ヶ月以上遅れたことは、本来しっかりと書かれるべきでしょう。

なお同区間の用地取得が完了したのは令和2年10月ではありますが、最後まで残っていたのは工事区間東端のゆいの杜ガーデンセンターのみであり、その他の用地は令和2年3月の時点で引き渡しを完了しています。

占有物件移設の難航

宇都宮市発表の資料にも多少書かれていますが、同区間には上下水道・電力・NTT・KDDIなど多くの占有物件があり、これらの移設が大変難航しました。

ただ移設するだけでなく、LRTの橋梁との関係で、道路南側の電力線・KDDI通信線については埋設する必要もありました。

※占有物件の種類、位置等は筆者が推定したものであり、正確なものを示すものではありません

上図が工事着手前の推定される占有物件の種類と位置です。なお東京ガス上下水道は省略しています。

区間南側で移設と同時に埋設するのは、東京電力(2回線)とKDDI(2回線)です。またKDDIは後述するように県のR408野高谷立体にも支障するためか、交差点西側まで埋設されます。このうち東京電力については順調に埋設が進み、2021年3月の時点で地上線の除去が完了しました。

また北側の電線共同溝は、歩道幅員が縮小する関係でやや北側に移設されています。

(2枚とも2021年3月17日撮影)

写真のように東京電力の配電線は除去され、KDDIの電線(2回線)のみ残っている状態になっています。このKDDIの電線の埋設・移設が非常に難航し、上の写真のように電柱を除去できない状態が続きました。そのため道路改良工事の部分に電柱が残され工事ができず、実質休工状態となっていました。

この写真はおそらくKDDIの埋設管路を推進工法で築造していたものと思われます(同じく2021年3月17日撮影)。

野高谷町交差点部分は交通量が多く開削で管路を敷設できないため、推進による敷設になったのだと思います。

そもそもLRT工事の影響範囲だけで考えれば、野高谷町交差点の東側で再度地上に出せばよいのですが、県もR408の立体化を行うことになりその橋梁にも支障するため、野高谷町交差点の西側まで埋設することになったのだと思います。

その後2021年4月頃までKDDIの通信線のみが残され、道路改良工事ができない状況が長く続きました。

東京電力は野高谷町交差点部分は上空の送電線との関係で前から埋設)

そして2021年4月頃に突如拡幅後の歩道上に電柱が現れます。埋設に時間がかかる一方、これ以上道路改良工事が遅れるとその後の工程に大きく影響が出るためか、一度新しい電柱にKDDIの通信線が移設されたのです。

これにより4月中旬には移設前の電柱が除去され、無事に道路改良工事が再開されることになります。

そして改良工事途中の2021年7月中旬ごろに、拡幅側に移設されたKDDIの通信線が埋設・開通し、地上線と電柱が除去されます。

電柱が除去できず道路改良工事が止まっていた期間は3ヶ月近くにもなります。市が公表している期間とほとんど同じです。

この区間の遅れの原因が単に「規制範囲の縮小による作業遅延」として片付けられてしまっていることに、私は少々疑問を感じます。当然理由の1つではあるのでしょうけど、現場を見る限りではどう見てもそれだけではなかったようですので、しっかりと公表してほしいものです。

なおその後の橋梁下部工や上部工は問題なく順調に進んでいることも書き記しておきます。

おわりに

以上が宇都宮市内の工事の遅延箇所と、その原因の考察になります。

最終的な完了時期には影響がないものの、他の区間でも占有物件の移設に手間取り、工期が延長されたものがいくつもありました。一度に多くの工事を並行して行うことは非常に困難であるということがよくわかります。

なお、あくまで筆者である私が現場の状況等から推測したものであり、正確な理由とは限りません。この情報をもとに公的機関等に問い合わせることは絶対におやめください。

次回は芳賀町区間の工事の遅れについて解いていく予定です(こっちのほうが闇が深い)。