第3種第1級

芳賀・宇都宮LRTの工事状況や各種設備などを解説しています。

芳賀宇都宮LRTのあれこれ(その6・用地編)

はじめに

あれこれも随分と続きその6となりました。その6では、LRT事業の建設用地確保に関するあれこれを整理していこうかと思います。

芳賀宇都宮LRT整備事業における用地取得の概要

芳賀宇都宮LRT整備事業では、既存の道路空間に整備する区間と、道路以外に新設する区間の大きく2つに分かれます。後者では新設のため用地取得が必要なのは言うまでもないですが、既存の道路空間に整備する区間でも、道路空間の再配分(車線数減少、歩道幅員減少等)では軌道敷設スペースが捻出できない区間があり、多くの区間で用地取得を必要としています。

 

宇都宮市区間

宇都宮市区間では、権利者数*1395名と交渉し面積では120,000㎡もの用地を取得する必要があります。これだけの用地を2018年度から2019年度(当初計画)という極めて短期間で取得する必要があるため、宇都宮市ではLRTの事業化を見据え2016年に用地取得の専門部署となる建設用地室を設置し、短期間かつ膨大な用地取得に備えてきました。

芳賀町区間

芳賀町区間では権利者数28名(面積不明)と交渉し用地を取得する必要があります。大半は本田技研、もしくは関連企業の用地となります。

なお芳賀町ではこのような大規模事業に対する経験が不足しているため、令和元年度から用地取得を栃木県の土地開発公社に委託しています。

用地取得の進捗状況

宇都宮市区間

(2022年5月2日更新)

2018年3月の事業認可以降、市議会等で示された用地取得の進捗をまとめたものです。

着手時の計画では令和元年度(2019年度)取得完了の予定でしたが、令和3年8月時点でも用地の取得は完了していません。それでも令和元年度末の取得率は約90%で、この数字自体これまでの他の事例からすると驚異的なスピードです。しかも建設用地室はLRTだけでなく他の事業用地も並行して行っています。用地行政としては近年稀にみる事例なんじゃないかと思います。後日談としてその辺の経緯をぜひまとめてほしいものです。

期間前半では車両基地予定地や新設区間を中心に用地買収を進めており、車両基地予定地は2019年度に用地取得を完了しています。また新設区間についても2021年8月現在平石中央小付近を除き大半の取得を完了していましたが、2021年12月には平石中央小付近を含めたほぼすべての地権者と交渉が完了したことが示されました。

平石中央小付近については2022年4月末頃から一斉に用地引き渡しに向けた支障物件の取り壊しが始まっており、5月中には全用地の引き渡しが完了するものと思われます。

併用軌道区間についても、駅東口~鬼怒通り間については2022年3月に全用地を取得、野高谷~芳賀町境については2022年5月時点で1箇所以外の用地取得を完了しています。なお残る1箇所の用地については、どうやら契約は完了し、引き渡し待ちの状況のようです。

芳賀町区間

芳賀町区間は2020年12月時点で契約率75%(残権利者数7名)と発表があります。2022年4月時点では契約はすべて完了し、終点付近の物流倉庫の引き渡しを待っている状況です。

用地交渉期間の短縮に関する取り組み

用地交渉体制

前述の通り、宇都宮市区間では極めて短期間に非常に多くの権利者と交渉し、用地を取得する必要が生じます。通常の道路事業では事業化後、用地測量等を1~2年かけておこない、そこからさらに数年かけてじっくりと用地交渉、取得を行っていくものです。それをたった2年度で用地測量から始めて395名の権利者の方と交渉し、事業用地を取得しようというのですから、いかに異例な事例なのかお判りいただけるかと思います。

しかも建設用地室はLRT事業だけでなく他の公共事業用地取得も担っています。もちろんLRT事業用地取得期間中も並行して他の事業用地も取得しています(しかも結構な件数)。

こうした異例に対応するために建設用地室を設置したわけですが、それでも短期間でのこれだけの権利者との交渉は職員の負担があまりに大きすぎます。そのため一部業務をコンサルに外注し、職員の業務負担を軽減する仕組みを取ったようです(入札情報からの推測)。

工事発注の前倒し

工事の発注にあたっては用地の引渡し前に権利者から起工承諾を取ることで、用地取得前に工事発注、用地引渡しとともに工事着手という形をとっています*2(実際は起工承諾の後に交渉が難航し、長期間工事に着手できなかった例があったようで...)

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沿道整備街路事業の活用

都市計画道路整備の用地買収では、既成市街地を計画線内のみ用地買収することから、場合によっては利用困難な残地が発生するなどし、用地交渉が難航することが多々あります。

このような事例に対応するため、国土交通省では沿道整備街路事業というメニューを用意しています。これは都市計画道路の計画線外を含めて、区画整理方式により街区や宅地を整備することにより、なるべく残地の残らない形で整備する方式です。(詳しくは沿道整備街路事業ガイダンスをご覧ください)

LRT事業では特に陽東5丁目の一部エリアでは、宇都宮向田線建設時に土地を切り下げて建設した関係で、計画線内のみを用地買収した場合、土地の形状から残地の活用が難しい箇所が出てきました。このままでは用地交渉が難航するため、陽東5丁目の一部エリアにおいて沿道整備街路事業を活用した事業用地取得を行うこととなりました(事業名: 宇都宮市陽東5丁目沿道整備)。

事業認可は2019年11月、施行面積は0.3ha、事業期間は2026年度までとなっています。

全国的には適用事例の少ない沿道整備街路事業ですが、幸いにも宇都宮市では雀宮駅西口の道路拡幅事業において適用事例がありノウハウが蓄積されていため、即適用判断と事業認可が行われたものと思われます。。

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宇都宮市陽東5丁目沿道整備の推定エリア(エリアは正確ではないため、情報を収集し後日修正します)

2021年8月現在はほとんどのエリアで宅地造成が完了しています。

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整地工事の様子(2021年3月撮影)。主に擁壁を設置し、道路面から一段上がったところに宅地を造成、奥は宅地造成が完了している。

おわりに

繰り返しになりますが、芳賀宇都宮LRT事業における用地取得は、ここ数十年では類似事例のないような驚異的なスピードで進められてきました。これは用地担当職員の並々ならぬ努力と、地権者・権利者の協力があってこそです。

工事の進展や納入された車両ばかりが目立っていますが、公共事業はまず用地取得があってこそです。芳賀宇都宮LRTには目立たないけどすごい一面があるということをぜひ知っていただけたらと思います。

*1:権利者数は土地所有者のほか、賃貸の入居者や建物所有者など取得する用地上のすべての権利者を含みます

*2:公開質問状への回答による