第3種第1級

芳賀・宇都宮LRTの工事状況や各種設備などを解説しています。

芳賀宇都宮LRTのあれこれ(その4・治水、浸水対策編)

はじめに

4回目となった芳賀宇都宮LRTのあれこれ。今回はLRT沿線で進められている治水・浸水対策についてまとめていきたいと思います。

駅東区間は都市型水害の頻発エリア

古くからの市街地であるJR宇都宮駅西側エリアとは反対に、JR宇都宮駅東側エリアは戦後急激に都市化が進んだエリアであり、現在に至っても治水対策が追いついておらず、頻繁に内水氾濫を起こしています。

f:id:road_hashas:20210713190032p:plain

上図は地理院地図のアナグリフに、JR宇都宮駅東口~平石の間でLRTと交差する河川すべてと溢水エリアを示しています。駅東口エリアは河川の密集エリアである(=起伏が激しい)ことがわかります。

(ただし上の河川のうち、石川、奈坪川、江川はLRT交差地点では暗渠であり、普段このエリアを走っていても河川を渡っている実感はあまりないかもしれません)

交差する河川毎に治水対策をまとめていきます。

 

石川

石川は東町で奈坪川と分岐し、下栗町で奈坪川に合流する全長6.2kmの支流です。平成20年に河川改修の事業化に向けて一級河川に指定されています。鬼怒通りと交差する箇所では、石川は 都市計画道路3. 3. 106号今泉川田線(一部区間の愛称は城東通り)の下に埋まっています(暗渠)。暗渠区間の前後では道路の真ん中に河川があるので、ここは暗渠になっていることを知っている人も多いのではないでしょうか。

 暗渠は駅東地区の区画整理で整備されましたが、この暗渠だけでは計画流量を満たしておらず、暗渠のさらに下にトンネルを整備する計画があります。

f:id:road_hashas:20210714133015p:plain

*1

ただし現在のところ事業着手の目途はたっていません。

奈坪川

 奈坪川は河内町奈坪台を起点に、下栗町で江川と合流する河川です。河川改修に伴い平成20年に石川とともに一級河川に指定されています。白楊高校西側から宿郷町までの約1.1kmは暗渠で道路下に埋まっています。またこの暗渠区間は計画流量を満たしていないため、平成20年度から約10年かけて、暗渠のさらに下に全長0.85kmのトンネル河川が整備されました。トンネルは都市域山岳NATM工法で、平成23年度から平成27年度にかけて掘削されています。

f:id:road_hashas:20210714134347p:plain

*2

 かなり長い期間大規模な工事をしていたため、知っている方も多いのではないでしょうか。トンネル工事を終え、上流部からの流入をトンネル部へ、東宿郷エリアの雨水を既存の暗渠に流すことで、LRTとの交差地点周辺では治水対策が完了したことになります。なお現在はより上流側の河道拡幅工事を行っています。

江川

 江川は峰町の国道4号付近から南下し下野市付近で鬼怒川に合流する河川です。実際は峰町の国道4号付近以北も河川は続いているのですが、現在は都市下水路に指定されており、LRTと交差する峰町交差点付近は暗渠として国道4号の下に埋まっています。

 

LRT国道4号をオーバーパスするため道路冠水の影響は受けませんが、峰町交差点付近は国道4号が周囲より一段低くなっており、かつ河川が暗渠になってしまっているため、排水が追いつかないような大雨時には国道4号が実質河川状態になってしまっており、道路冠水が頻繁に発生しています。

国道4号以北は河川ではないため、現在のところ改修計画等は建てられておりません。

越戸川

河川の概要

今回紹介する河川の中では一番LRTとの関係性の深い、越戸川の紹介です。

越戸川は東今泉2丁目付近の旧柳田街道との交差地点から西刑部町で江川放水路に合流する準用河川です。なお旧柳田街道以北は都市下水路指定ですが、「下水道水緑景観モデル事業」で平成12年度に越戸せせらぎ通りとして地下に雨水排水路、地上部に遊歩道と水路が整備されており、市民の憩いの場として親しまれています。

元々農業用水だった越戸川は、旧柳田街道交差地点から石井町の久部街道との交差地点までは、河道が非常に狭いにもかかわらず、都市化により多くの雨水が流れ込むようになってしまっており、大雨時には頻繁に溢水、浸水していることでも有名です。

特に越戸川流域の鬼怒通り陽東4丁目付近では、ゲリラ豪雨の度に道路冠水で通行止めになりニュースにも紹介されるなど、非常に有名な冠水地帯です。

越戸川バイパス事業

越戸川沿いは住宅が張り付いており、これ以上の河道の拡幅が非常に難しいため、産業通りとの交差地点から久部街道との交差地点まで、道路整備と合わせて内空断面幅6m高さ3mの巨大なバイパス水路(暗渠)を施工することになりました(越戸川バイパス)。

f:id:road_hashas:20210714140654p:plain

f:id:road_hashas:20210714141139p:plain

*3

越戸川バイパスを整備する区間では、上流側からそれぞれ産業通り(陽東1)、産業通り(宇大東南部第2区画整理)、宇大東南通り(宇大東南部第1区画整理)、久部街道拡幅事業が行われており、いずれも道路を新設、または拡幅するエリアの下に整備されます。

平成21年度から事業が進められていますが、LRTが事業化されて以降、産業通りの整備とあわせて急ピッチで整備が進められており、それまで年間20~40m程度の進捗だったものが昨年度は200m以上進捗しており、LRT開通になんとか間に合わせようという関係者の涙ぐましい努力を感じます。

越戸川都市下水路の存在

実は越戸川バイパスより前にも、同区間で越戸川のバイパスが整備されています。陽東小南西付近で越戸川と分岐し、陽東中西側を経て、石井町の南で越戸川に戻る直径2mの雨水管が平成元年から平成3年までに道路下に敷設されているのです。陽東中の前の市道は幅4mにも満たない狭隘な市道で、シールド工法とはいえこのような道路の下に雨水管を整備したなんてちょっと信じがたいですね。整備当時は工法などで整備エリアの地域住民と相当揉めたらしいです。

ということで実は越戸川バイパスは越戸川の2本目のバイパスなのです。それだけ大きな問題を抱えている河川ということです。

f:id:road_hashas:20210714152727p:plain

雨水幹線整備事業

陽東4丁目付近の冠水原因

前述の越戸川バイパス整備は産業通り以南の話で、産業通り以北の流量は不足したままです。このままでは特に浸水(道路冠水)が頻発している陽東4丁目付近の抜本的解決には至りません。

ここで昔の航空写真を見てみましょう。1948年12月撮影の陽東付近の航空写真(国土地理院・米軍)です。

f:id:road_hashas:20210714143347g:plain

現在冠水が多発している陽東4丁目の鬼怒通り付近に、あきらかに小さな河川のようなものがみられます。これこそが越戸川とは別に周囲より低くなっているエリアの正体です。

※現在の土地区画もこの流れに沿った形状になっています

f:id:road_hashas:20210714143747p:plain
しかし現在はこの一帯は宅地開発され、周囲より低くなっているにもかからわず、河道は完全に埋め立てられ雨水を流すことはできません。鬼怒通りや産業通りの側溝に雨水の排水を頼っている状況です。これではちょっとの雨量で冠水してしまうのも納得ですね。

雨水幹線の整備

この冠水対策として、越戸川BPとは別に、公共下水道(雨水)を鬼怒通りから産業通りにかけて整備することになりました。あわせて旧ちとせ寮の緑地帯に貯水池を整備し、近年頻発するゲリラ豪雨にも耐える想定です。

※旧ちとせ寮の貯水池からの排水は、ちとせ児童公園を横切り越戸川都市下水路に接続する雨水管が整備されています

f:id:road_hashas:20210714145352p:plain

概ね直径1.8m~2.0mの雨水管が道路の下に開削工法で整備されました。こちらは相次ぐ入札不調と、重交通の道路上での開削工法という施工難易度の高さから進捗が遅れていましたが、令和3年度をもって事業完了する見込みです。

山下川

河川の概要

山下川は平出町寺内付近から陽東地区を経て、石井町付近で越戸川に合流する準用河川です。なお平出町寺内付近から上流は内川という名称で岡本付近から流れています。

ほぼ全区間鬼怒川の河岸段丘に沿うように流れており、多くの区間は圃場整備にあわせ河川も整備されるなど、用水路としての役割が高い河川です。しかしながら鬼怒通りとの交差地点のみ未整備となっており、たびたび溢水が発生していることから、LRTの整備に合わせ鬼怒通り交差部分の推進管を整備することとなりました。

準用河川山下川改修工事の概要

鬼怒通りとの交差部は小さな管があるのみで、大幅に流量が不足している状態でした。

そのためまずこの既存管を撤去し、新たに直径2.5mのヒューム管を3本、推進工法で敷設する計画が立てられました。この交差部のLRT軌道敷設は高架橋へのアプローチ擁壁部で、LRTの工事が本格化した後では既存管の撤去が難しくなるため、まずLRTの工事が本格化する前の平成30年度から令和2年度にかけて、鬼怒通り下に埋まっている既存管の撤去が行われました。

その後令和3年度より鬼怒通り下で直径2.5mのヒューム管を3本、推進工法で敷設する工事が行われています。

新設区間における浸水対策

芳賀宇都宮LRTでは多くの区間が道路上、または新設区間であっても嵩上げ区間がほとんどであり、事業単独の浸水対策はほとんどありません。

唯一新設区間であり、かつ平面区間である平石~平石中央小付近については、沿線に貯水池数か所を整備することで、浸水を防ぎます。沿道は田畑がほとんどであるため、これ以上の対策は不要でしょう。

おわりに

以上が芳賀宇都宮LRT沿線の治水、浸水対策に関するあれこれでした。コンパクトにまとめるつもりが、非常に長くなってしまいました。

次回は渋滞対策に関するあれこれをまとめていきたいと思います。

 

*1:一級河川 利根川水系田川圏域河川整備計画より引用

*2:一級河川 利根川水系田川圏域河川整備計画より引用

*3:宇都宮市産業通り陽東Ⅰ事業説明資料より引用